坂を転がる果実のように

吉本坂46 を応援するブログ(藤井菜央推し)

吉本坂46劇場公演への期待と不安〜〜前編 アイドルとは

遅ればせながら前回(9月1日深夜放送分)の『吉本坂46が売れるまでの全記録』を見た。どうやら吉本坂は「既存のアイドルグループとは一線を画した総合エンタメ集団」へと方針転換を図るらしい。
併せて、新設されたよしもと有楽町シアターを拠点として週一回の定期ライブを開催していくことも発表された。放送内では、CIRCUSの河本とエハラ、REDのA-NON、スイートMONSTERのたかしが新シアターを実際に訪れ今後の構想を熱く語り合う場面も見られた。コロナで大変なこの時期に劇場を拠点とするなんて、とも思ったが、どうやら新設されただけあって充実した配信設備にも期待がかけられているらしい。
うん、えーと、その、それは良いのだけれども、んー、


「既存のアイドルグループとは一線を画した総合エンタメ集団」とは?

その説明を抜きにいきなりライブの展望を語られても、どう受け止めて良いものやら戸惑う。

坂道シリーズを追っている身として思い起こされるのは、デビュー直後のひらがなけやきことけやき坂(現・日向坂)による一発芸大会だ。
当時のひらがなもたしか「パフォーマンスの欅坂とは一味違う、総合エンタメ集団を目指せ!」とかなんとか言われて(今野さんにでしたっけ?)、ライブでは楽曲の披露のみならず一輪車やリフティングといったさまざまな特技を披露していたのだ。ちなみにその路線は一瞬で終わった。
吉本坂には、第一線で活躍する芸人をはじめとして、ダンサー、現役医師、脚本・演出家、バレエダンサー、ジャグラー、役者、アクション俳優といった多彩な顔触れが揃う。それらを劇場で活かせば「総合エンタメ」なるふわっとしたものを魅せていく活動も可能なのかもしれない。

しかし、はたしてそれは本当に吉本坂46としてすべきことだろうか。
少なくとも、「吉本坂でなければできないこと」ではないことだけは確かだ。
実際に、エグスプロージョンやOoops!といったエンタメ集団に所属しているメンバーも既にいる。詳しくは存じ上げないが新喜劇というのもエンタメ集団に近いものなのではなかろうか。
もちろん、個々の集団だけではできない掛け合わせでも吉本坂に集った者たちでなら実現できるかもしれない。せっかく集まったこれだけの芸達者たちだ。そこに期待する気持ちも、ファンとしては当然ある。

しかし、それはあくまで既存のアイドルのフォーマットをベースとしつつ、乱立するほかのアイドルグループとは異なるプラスアルファの持ち味として挑戦すべきことだ。アイドルソングをみんなで歌って踊るという根幹を疎かにするようでは、「坂道」の名を冠した意味がない。

吉本坂の最大の魅力は、それぞれ様々な経歴をもつばらばらなメンバーなたちが「アイドル」というひとつの成果に向かって団結していくストーリーにあると思っている。
若いメンバーは、百戦錬磨の芸人たちに交じっての自己表現に悩みつつも胸を借りて技を吸収し成長していく。お笑いで長く活躍してきたメンバーは、芸能人としては後輩でもアイドルやパフォーマーとしては先輩である若いメンバーの背中に必死で食らいついて踊る。あるいは頑張った結果やはり踊れなかった者も皆に負けないくらいたくさん客席を盛り上げる。そのストーリーは、やはり「吉本」と「坂道」という一見すると相反する組み合わせでなければ生まれ得なかっただろう。

ここで重要なのは、繰り返すがあくまで「ベースはアイドル、プラスアルファの強みは芸」の構図である。
断じて逆転してはいけない。「芸をベースに、プラスアルファで歌って踊る」のはアイドルではない。ただのアイドルモノマネ芸だ。芸人さん方はさぞモノマネがお得意でしょうから、ひとたびその方向に舵を切ってしまえば以降はもうアイドルの真似事しか見られなくなるだろう。
「既存のアイドルとは一線を画した総合エンタメ集団」の言葉を聞き、私が最も危惧したのはその点である。
アイドルの枠を出て、雑多なパフォーマンスをするエンタメ集団となれば、それ以後は世の中に数多あるエンタメ集団の中の一つとして判断される。吉本の施設を拠点とするならお笑いファン層への訴求力は高いかもしれないが、「アイドルモノマネ芸」は売りとしてそう強くないだろう。芸人たちがモノマネをしているだけでは、その題材にアイドルを選んだところで意外性の欠片もないことに変わりはない。
面白いエンタメは世にいくらでもある。
アイドルの枠の中の存在として判断され、アイドルファンへの訴求に注力していくのなら、メンバーたちが芸歴の中で踏んできたアイドルに限らない場数はきっとアドバンテージになる。


重ねて強調するが、あくまでアイドルの枠内に立ち続けながらにして枠を超えることこそが重要なのだ。枠を出るようならもう坂の名は捨てたほうがいい。そのあとはお笑いファンの支持を得られるかどうかの問題であって、私たちアイドルファンには関係がない。

時間はある。ワクチンが行き渡るまで、どこもかしこもステージパフォーマンスは数年間の停滞を余儀なくされるだろう。そこから頭一つ抜け出ることを考えるのであれば、旧来のハコ形態への依存を捨てて新たなアクションを起こし続けていく必要もあろう。しかしそれができるのはきっと世界でも一握りだ。どちらかといえば吉本興業は保守的な企業イメージである。無理に革新を目指さずとも良い。革新
派の同業他社たちが手法を確立してから資本を投入するのでも構わない。今は充電期間と思って、群雄割拠のエンタメ界で前衛にはならずとも取り残されることのないよう必死に練習を重ねてほしい。ファンにはその姿を見せてほしい。(配信でいいから。)
事務所未所属者をオーディションする他の坂道シリーズと違い、吉本坂のメンバーは皆もともと吉本やその関連事務所の所属者で、芸能のお仕事を生業としている。(※例外として、吉本にマネージャー業で雇用されている者もメンバーに1名いる)
そのため、進学等で人生の局面が変わることで卒業、さらには芸能界を引退してしまうことも少なくない従来のアイドルよりも、長期の目標を見据えた活動が可能だ。(※結成から2年経過したが、1期生46名中卒業者は『海外在住で活動への参加が困難』とした者と、結婚に伴い事務所を退所した者の計2名のみ。比較対象にもよるが、2年で46分の2≒4.3%は大所帯アイドルの中で相当低いと言って良い)
ぜひとも、アイドルのフォーマットを遵守しつつ、従来のアイドルでは見られなかったようなプロフェッショナルのエンタメにも取り組んでみてほしいと期待している。「坂道」の名のもとに集うことが無ければ出会っていなかったかもしれない異業種同士の者たちも、この期間に新たなコラボレーションの可能性を探ってみてほしい。

本音を言ってしまえば、老若男女のグループが本気でアイドルとしてのステージに取り組む様が観られればそれだけで満足している。アイドルパフォーマンスが本人たちに軽視される心配をしてまで新たなパフォーマンスに期待したいとは思わない。それでも、やはりこのグループの強みは芸なのだ。数あるアイドルグループの中で売れるには、強みを磨くほかない。(もちろん、アイドルの基本を学んだ上でだが) 自分の推しているグループには売れてほしいものである。だから、私はどうか、どうかアイドルであることを忘れないでと願いつつ新たな芸にも期待するほかないのだ。