坂を転がる果実のように

吉本坂46 を応援するブログ(藤井菜央推し)

吉本坂メンバー自己紹介 アイドルファン視点の寸評

先月の『吉本坂46が売れるまでの全記録』で放送された自己紹介の感想です。


ゆりやんレトリィバァさん

名前に絡めての犬コンセプトがよかった。今田さんには「『みんなで犬小屋を建てよー!』というフレーズだけは意味がわからない」と言われてしまっていたが、そういったキーワードがあるとゆりやん推しの皆様のことを例えば「建設員」などと呼称できて良さそう。


おばたのお兄さんさん

冒頭の「0!2!3」の繰り返しが3回である点が気になった。一般に偶数回のほうがテンポが良くなるのでは。レスポンスを想定すれば、自分で1回→客席に手を向けて1回の計2回か、それを2巡で計4回かが良いと思う。全体的に長い。削れる箇所は削ってほしい。最後に駄目押しのようにポーズをするのも不要。ポーズを入れたいならフレーズ中に組み込むほうがまとまるかも。


エハラマサヒロさん

リズムに乗せた自虐ネタの部分だけでも充分な長さがあるので、そのリズムを崩してまでモノマネネタを入れてしまうと少々くどく感じられるのでは。アイドル・エハラ推しの皆様はどんなお気持ちで自虐をご覧になるのだろう。そこも愛おしい、のほうに転んでくれればとても良い自己紹介になるかもしれない。




マサルコさん

アイドルの自己紹介は、ファンにも覚えて一緒に言ってもらえることが肝要だ。よって、ファンが口に出しづらい放送禁止用語は極力避けるべきと愚見を述べたい。ご本人が「ゲイ」というワードではなく「ホ」で始まるワードに誇りをお持ちなのであれば自己表現においてそれを用いるのは当然のことだろうが、アイドル活動においてはファンも覚えることが前提とはなっていないトーク等の場での使用に留めるべきでは、などと言ってしまうとアイドルから自己表現の権利を奪ってしまうことになるか…… であればこれはアイドル側に求めるべきことではなく、ファン側で自主規制すべきことか。

それはともかく、長い。


岩橋良昌さん

長い。フレーズに区切れを作るとレスポンスしやすい。


八木真澄さん

代名詞の一発ギャグを弾丸速で詰め込んでいて良かった。脈絡のない被り物は、ステージ上で毎回披露する用意はあるのか疑問。自称・Cute担当としての演出にそれほど効果的には思えなかった。顔も読みづらくなるし、どうしても着けたいなら耳カチューシャがベターでは。肉球ギャグの「Cute(笑)」感は良かった。ギャグを毎回入れ替えるのであれば、八木さんの思う可愛い系ギャグを詰め込んだバージョンも見てみたい。




・岡畑雛生さん

アイドルの自己紹介をよく勉強して作ってきたのだろう。真面目で純粋そう。その分、アクの強い芸人さんたちに混じっての自己表現で苦心するかも。実力は確かなので、もし困ることがあれば盛り立て上手な先輩方にご助力願いたい。


木原実優さん

見た目(マッシュヘア)、ルーツ(お父さまが気象予報士)、性格(フレンドリー)をコンパクトにまとめ、若干のツッコミどころも作りつつ、「げんきーちゃん」のフレーズで愛称と元気キャラのアピールもできていて非常に優秀。完成度が高い。強いて挙げるなら「吉本坂みんなの飲み友達」はわずかながら語呂が良くないので、「飲み友達」のワードは活かしつつ七五調など語呂のいい調子にできると良さそう。


・梶原颯さん

まず、画角はもう少しどうにかなりませんでしたかね。
内容のシンプルさに比して手数が多いためテンポが悪い。服をまくって筋肉を見せるシーンがあったが、衣装を着用している際のことも想定できているだろうか。(逆に、オリジナル衣装を制作するときはいつでも脱げるものをオーダーすることが必要かもしれない)まあでも、どことなく愛嬌があって嫌いではない。




多田智佑さん

本人は疑問を持ちつつも今田さんは好感触だった「いつも心になんでやねん」、語呂も良くツッコミのポジションも表せていて良いと思う。持ちネタの「ナイスぅー」まで短い時間で盛り込んでいる点も良い。アイドルのキャッチフレーズで大切な要素であるテンポの良さはクリアできている。ただ、背景のエアコンがなぜだか無性に目についてしまった。なんの変哲もないエアコンではあるのだが。


・きょんさん

モノマネを前面に押し出した自己紹介。ご本人のキャラが伝わりづらいのが難点。(特にモノマネが有名な芸人さんということでもないようなので) また、客席にもずっこけをしてほしい様子だったがそれは要求が高い。反応を求めるならもう少しコール&レスポンスのしやすいフレーズを入れると良い。


HIDEBOHさん

テイク1:長い テイク2:名前を言えていないからただのギャグ との自己評価によりテイク1でエントリー。
どちらもまったく仰るとおり。問題点しかない。だがただのギャグからですら伝わる体幹はさすが。とりあえず、岡畑さんの前では披露しないでくれればそれで良い。あと同じく2期生の渡口さんも擦れていなさそうな印象を受けるのでそこもお願いします。


以上の12名から、早川聖来さんによって1位に選ばれたのはHIDEBOHさんだった。
個人的には、アイドルにおいては「視界に入るだけでつい気になってしまう存在感」を持つ者が有利だと思う。今回、そんな天賦の才をもっとも感じたのは、多田さんのご自宅の白いエアコンさんだった。当ブログではエアコンさんを1位に推す。

吉本坂46劇場公演への期待と不安〜〜後編 ユニット、メリット・デメリット

(主にメリットを主張する内容である。)


さて、以前から燻り続けている不安も一点ある。

たのむから!!!!!
ユニット推しを!!!!!!!
途絶えさせないでくれ!!!!!!!!!!


吉本坂は過去に3枚のCDを発売してきたが、ここまで固定ユニット制を維持してきている。

1stでは、有名芸人を主とした「選抜」(※固有名詞ではない。表題曲に選抜されたメンバーを選抜と呼ぶ)【16名】、歌やダンスなどのパフォーマンスに長けたメンバーや実際にアイドル経験のあるメンバーを主とした「RED」【16名】、"大人の社交場"をコンセプトとしてベテランが集まった「ビター&スイート」11名、ピン芸人1人と選抜ダブルセンターの各コンビ相方2人からなる「POP MONSTER」【3名】
の4ユニットの楽曲と、加えて選抜所属メンバー1名によるソロ楽曲の全5曲が制作された。

2ndでは、ユニット対抗売り上げバトルが繰り広げられた。アイドルによくあるCDの複数形態売りを吉本坂でも行っているのだが、この2ndは各ユニット毎の形態が制作され、最も多く売り上げたユニットが3rdの表題を歌う「選抜メンバー」となることになった。このとき、人数面でハンデのある「ビター&スイート」と「POP MONSTER」は合体して「スイートMONSTER」【14名】となった。
この3ユニットが、現在まで続く固定ユニットである。1期生の(卒業生2名を除いた)44名は、これらのユニットに漏れなく・重複なく所属してユニットごとにパフォーマンスを披露している。
なお、2ndでは加えて、企画ユニット「CC5」【選抜所属者2名、RED所属者2名、スイMON所属者1名からなる5名】も結成され、全4曲が制作された。

売り上げバトルは3つの固定ユニット中圧倒的な強さで「RED」が勝利し次回の表題曲選抜となることが内定した。それに伴い旧選抜には「CIRCUS」というユニット名が与えられた。

3rdでは、固定ユニットの3曲、今回の企画ユニット「CHAO」【CIRCUS所属者3名】の1曲、全員歌唱の1曲(乃木坂における『乃木坂の詩』の位置づけ)の全5曲が制作された。


このように、ここまで発売されたCDでは固定ユニット制が敷かれてきた。プロモーションのために歌番組に出たりショッピングモールなどでミニライブを開催したりといった際にも、このユニットごとに稼働してきた。例外として、現CIRCUSは人気芸人が多くスケジュールの都合のつかない者も必然的に多くなるため、歌番組での披露にあたりアンダー(助っ人)として非選抜メンバーがポジションの穴埋めをすることもあった。(その場合、身体能力が高く振り覚えの早いREDメンバーが務めることが多かった。)しかし、助っ人は助っ人であり、ユニット横断ではない。
各ユニットごとに稼働するシステムによって、ファンは各ユニットへの愛着を持ち、推してきたように思う。

少しばかり、私の推している別のアイドルグループの話をしよう。
ラストアイドルファミリーというアイドルグループをご存じだろうか。
オーディション番組『ラストアイドル』を通して選ばれたメンバーからなる看板ユニット「ラストアイドル(現・LaLuce)」と、番組内での最終オーディションに敗れたメンバーたちからなる4つのセカンドユニット「Good Tears」「シュークリームロケッツ」「Someday Somewhere」「Love Cocchi」の5ユニットを1期生として2017年にデビューし、2018年からは同様のオーディション番組を経て勝者「ラストアイドル2期生」と惜しくも敗れた「2期生アンダー」も加わり活動しているアイドルグループである。
まあ細かい経緯はここでは省くが、結論を述べると現在はすでにユニットとしての機能がかなり弱まってしまっている。いきさつが複雑なのだがとにかくある時期以降だんだんと各ユニットの存在が薄れてゆき、今年の4月にリリースされた8thシングルでは企画ユニット曲に駆逐され、固定ユニット曲は制作されていない。(過去にもそのパターンはあった)11月に発売される9thシングルでは表題曲こそユニットとは無関係の選抜企画が進行中だが、今のところほかの新企画ユニットは発表されていないので、カップリングでユニット制が復活してくれるといいのだが。

2期生の加入と定期ライブ開催によって固定ユニットの機能が弱まっていく運びを、ラストアイドルのオタクは目にしてきた。奇しくも、ローンチ時の看板ユニットが以後のシングルで表題曲から外されたことによって新たな名前を与えられたという共通点もある。(吉本坂の場合、看板はメンバー全員の共有物であるかのような意識もメンバー内にあった。だからこそ前述した助っ人制も成立した。表題を降ろされ、CIRCUSという固有名詞を与えられてはじめて『ユニット』としての結束が強まったような面もある。しかしながらLaLuceの場合は、ただの『ラストアイドル選抜』ではなく『ラストアイドル』という固有名詞を与えられたうえでそれを剥奪されたのだから質が悪い。たとえその固有名詞がオーディション番組の看板名と同じであったとしても、だ。 )

ラストアイドルと吉本坂にはどうしても符号するものを感じてしまう。既に固定ユニットが稼働し支持を得ている中で1期生とは毛色の違う2期生が加入し、さらに定期ライブも開催されるようになった。そんなラストアイドルは、吉本坂の今後に大きな示唆を与えてくれるだろう。

(ラスアイについては省いた部分の経緯が色々と複雑なので必ずしも吉本坂にも当てはまるとは言えないところもあるが)

ラストアイドルの定期ライブでは従来のユニットにとどまらない様々な取り合わせのメンバーによるライブが開催された。これは、お楽しみとして企画されたことだけが理由ではないと推測される。各地で各々の生活を送るメンバーのスケジュールを連日押さえるためには現実問題フレキシブルなメンバー編成に頼らざるを得なかったこと、また従来の固定ユニットでの公演を続けるだけでは(特に人気メンバーの少ないユニットで)集客面の不安があり、目先を変えたい意図があったこと、といった事情もあっただろう。

これらは、細部は違えどおおまかには吉本坂にもあてはまる可能性がある。

ラストアイドルの場合、集客はメンバー個人に依存するところが大きい。私のような固定ユニット推しオタクは少なく数字に繋がらなかった(、と、少なくとも運営はそう判断した)ことから、固定ユニットはないがしろにされるようになった。

固定ユニット脱却路線が明確になり始めた頃、外部のフェスなどでもシャッフルユニットのステージが披露される際、「このイベントでしか観られないスペシャルな編成でお届け!」というような煽り文が付けられていたことがあった。
はあ、そうですか、specialって、いちど英和辞典を引いてきてもよろしいでしょうか。

ユニット制により固定メンバーでのパフォーマンスを続け、さらにはユニット同士で競い合うことによって、一時期のラストアイドルファミリーはスキルアップ重視の傾向が生まれていた。大人数では生歌が難しいため概して大所帯グループは口パクをするものだが、少人数の固定ユニットでは生歌を貫いていた。(これ自体は現在のランダムなメンバーによる少人数ライブでも続けられている) また、固定ユニットで練習を重ねたからこそできる息の合ったダンスパフォーマンスもあった。固定ユニットだからこその、名刺代わりとなるマスターピースも生まれた。表題曲を歌うユニットをユニット間バトルで選んでいた頃には、どのユニットも毎週見る度に驚くほど練度が上がっていた。
とはいえ、ASH出身者やエイベックス系やLDH系のグループ、あるいはK-POPアイドルなどに比肩しうるほどの練度には、(少なくともユニット制が敷かれていた短い期間だけでは)達することができなかった。スキルを磨く修練の過程を見せるスタイルこそ現在でも続けられているが、パフォーマンススキルという結果自体に重きを置くのは得策でないと判断されたらしい。歌番組等での外部へのアプローチでは、大人数選抜での口パク歌唱が基本になった。
固定ユニットと、ユニット制だからこそのパフォーマンススキルは、ラストアイドルファミリーの集客力にはならない。ユニット制の維持を捨ててでも増員し、人気メンバーを育てることが既定路線となった。今では、なんのスペシャル感もなしに「Love Cocchi」の持ち曲『Love Docchi』や「Someday Somewhere」の持ち曲『いつの日かどこかで』を様々なメンバーが歌っている。


吉本坂の運営もそう遠くないうちにユニット固定の緩和を打ち出してもおかしくないと思っている。

今までも、トーク番組やバラエティ企画、配信企画などでは固定ユニットにとらわれないメンバー編成が多かった。しかし、ステージ稼働では各ユニットが持ち曲を歌う形が基本だった。

となると目下の問題は、現時点で楽曲を持たない2期生の処遇である。
2期生は新ユニットを結成するのか、既存のユニットに配属されるのか、そのアナウンスはなされていない。
新ユニットができるにしても、持ち曲がない。吉本坂は、基本的には手売りをしたり握手券を付けたりといった接触によってCDを売っている。現在はオンラインイベントなどをこなしてはいるものの、新しいCDを制作できるかは未知数だ。配信限定リリースなどがあるのかもまだわからない。
2期生の中には、既存ユニットへの加入を志望している者もいる。
しかし、2期生は全21名もいる。既存3ユニットでは受け皿が不足するだろう。漏れなく重複なくユニットに所属する制度を維持していくのには限界があるかもしれない。

そうなった時に運営が取りうる手段の一つが、ユニット脱却、フレキシブル編成への移行だ。

ラストアイドルファミリーにおいては、1期生22名5ユニットに対して2期生12名と2期生アンダー18名の計30名が加入した。2期生達は、活動開始直後は少人数ずつ1期生固定ユニットのライブに部分的に参加して混成で1期生の曲を披露する形を取っていた。あくまで私見であり穿ち過ぎかもしれないが、これはユニット脱却への大きな足がかりとなっていたのかもしれない。(※2期生加入に関しては、かなり早い段階でオーディションの辞退者から『2期生は1期生のような少人数ユニット制にはしないと運営が言っていた』とのリークがあり、ファンは1期と2期は別路線を歩むものかとも思っていたのだが)
現在は「2期生」「2期生アンダー」には2曲ずつの持ち曲があるが、ユニットとして稼働した経験は1期生に比べると少ない。

吉本坂2期生も、当面は正式な配属先の発表を待たずに1期生と混成でステージに立つ可能性があるのかもしれない。さらに、そのまま固定ユニット制を撤廃していく方向に進む可能性もあるのかもしれない。

正直なところ、吉本坂にどの程度ユニット推しのファンが存在するのか私には読めていない。
それでも、私はグループ内ユニット制には多くの魅力があると思っている。

アイドルグループは時に切磋琢磨し時に団結することでストーリーが生まれる。グループ内の個人間で争うときであってもユニットというホームがあることで安心感が生まれるし、ユニット同士がライバルとなることもできる。そんなユニット同士で団結することもある。固定ユニットはいわば一つの仮想人格であり、アイドルのストーリーを拡張する舞台設定なのだ。
加入と卒業のスパンが短いことの多い既存アイドルでは、人間関係のストーリーも儚いものが多い。対して活動を長く続けやすい吉本坂では、濃密な人間関係を築くことが可能だ。そのストーリーを描くうえで、固定ユニット制は大きな支えとなるのではないだろうか。

また、大人数のグループでステージの練度を高めていくのはプロのパフォーマーでもない限り限界がある。持ち味の異なるユニットに分かれて固定することで、それぞれの魅せ方に特化して経験を積むことができる。

『全記録』内のトークで、シャッフルユニットでの楽曲披露にも前向きな姿勢が見せられていた。去年のアニバーサリーライブで、出演の叶わなかったメンバーによるソロ曲を特別編成のメンバー4名で歌唱して大いに盛り上がったことに自信を得たらしい。

シャッフルユニット自体は悪いものではない。しかし、それで盛り上がるのはホームとなる固定ユニットがあってこそだ。それが無いようなら「特別シャッフルユニット」は「毎度のランダム寄せ集め」になってしまう。なり下がってしまう。それだけはどうか忘れてほしくない。
ステージの回数が増えても小手先の入れ替えで目新しくすることに逃げず、着実に質を高めることでいつ見ても飽きないロングランを目指してほしい。


アイドルは、お遊戯会と揶揄されることもある。歌も踊りもプロではないメンバーが集まってステージの上で歌って踊る様は見るに堪えないというのだ。

吉本坂には、既存のアイドルグループの中で一番ダンスの苦手な部類のメンバーよりもさらに踊れない、あるいは踊る気のないメンバーたちも在籍しているように見えるかもしれない。あるいは膝や腰を庇いながらでなければ動けないメンバーもいるだろう。
それでも私は、そんな彼らが"アイドル"を極めていくストーリーを見たい。
言いたい方々には言わせておけば良いだろう。芸の道に生きてきたメンバーの、本気の「お遊戯」を見せつければ良い。それはきっと、ただのお遊戯ではない。

吉本坂46劇場公演への期待と不安〜〜前編 アイドルとは

遅ればせながら前回(9月1日深夜放送分)の『吉本坂46が売れるまでの全記録』を見た。どうやら吉本坂は「既存のアイドルグループとは一線を画した総合エンタメ集団」へと方針転換を図るらしい。
併せて、新設されたよしもと有楽町シアターを拠点として週一回の定期ライブを開催していくことも発表された。放送内では、CIRCUSの河本とエハラ、REDのA-NON、スイートMONSTERのたかしが新シアターを実際に訪れ今後の構想を熱く語り合う場面も見られた。コロナで大変なこの時期に劇場を拠点とするなんて、とも思ったが、どうやら新設されただけあって充実した配信設備にも期待がかけられているらしい。
うん、えーと、その、それは良いのだけれども、んー、


「既存のアイドルグループとは一線を画した総合エンタメ集団」とは?

その説明を抜きにいきなりライブの展望を語られても、どう受け止めて良いものやら戸惑う。

坂道シリーズを追っている身として思い起こされるのは、デビュー直後のひらがなけやきことけやき坂(現・日向坂)による一発芸大会だ。
当時のひらがなもたしか「パフォーマンスの欅坂とは一味違う、総合エンタメ集団を目指せ!」とかなんとか言われて(今野さんにでしたっけ?)、ライブでは楽曲の披露のみならず一輪車やリフティングといったさまざまな特技を披露していたのだ。ちなみにその路線は一瞬で終わった。
吉本坂には、第一線で活躍する芸人をはじめとして、ダンサー、現役医師、脚本・演出家、バレエダンサー、ジャグラー、役者、アクション俳優といった多彩な顔触れが揃う。それらを劇場で活かせば「総合エンタメ」なるふわっとしたものを魅せていく活動も可能なのかもしれない。

しかし、はたしてそれは本当に吉本坂46としてすべきことだろうか。
少なくとも、「吉本坂でなければできないこと」ではないことだけは確かだ。
実際に、エグスプロージョンやOoops!といったエンタメ集団に所属しているメンバーも既にいる。詳しくは存じ上げないが新喜劇というのもエンタメ集団に近いものなのではなかろうか。
もちろん、個々の集団だけではできない掛け合わせでも吉本坂に集った者たちでなら実現できるかもしれない。せっかく集まったこれだけの芸達者たちだ。そこに期待する気持ちも、ファンとしては当然ある。

しかし、それはあくまで既存のアイドルのフォーマットをベースとしつつ、乱立するほかのアイドルグループとは異なるプラスアルファの持ち味として挑戦すべきことだ。アイドルソングをみんなで歌って踊るという根幹を疎かにするようでは、「坂道」の名を冠した意味がない。

吉本坂の最大の魅力は、それぞれ様々な経歴をもつばらばらなメンバーなたちが「アイドル」というひとつの成果に向かって団結していくストーリーにあると思っている。
若いメンバーは、百戦錬磨の芸人たちに交じっての自己表現に悩みつつも胸を借りて技を吸収し成長していく。お笑いで長く活躍してきたメンバーは、芸能人としては後輩でもアイドルやパフォーマーとしては先輩である若いメンバーの背中に必死で食らいついて踊る。あるいは頑張った結果やはり踊れなかった者も皆に負けないくらいたくさん客席を盛り上げる。そのストーリーは、やはり「吉本」と「坂道」という一見すると相反する組み合わせでなければ生まれ得なかっただろう。

ここで重要なのは、繰り返すがあくまで「ベースはアイドル、プラスアルファの強みは芸」の構図である。
断じて逆転してはいけない。「芸をベースに、プラスアルファで歌って踊る」のはアイドルではない。ただのアイドルモノマネ芸だ。芸人さん方はさぞモノマネがお得意でしょうから、ひとたびその方向に舵を切ってしまえば以降はもうアイドルの真似事しか見られなくなるだろう。
「既存のアイドルとは一線を画した総合エンタメ集団」の言葉を聞き、私が最も危惧したのはその点である。
アイドルの枠を出て、雑多なパフォーマンスをするエンタメ集団となれば、それ以後は世の中に数多あるエンタメ集団の中の一つとして判断される。吉本の施設を拠点とするならお笑いファン層への訴求力は高いかもしれないが、「アイドルモノマネ芸」は売りとしてそう強くないだろう。芸人たちがモノマネをしているだけでは、その題材にアイドルを選んだところで意外性の欠片もないことに変わりはない。
面白いエンタメは世にいくらでもある。
アイドルの枠の中の存在として判断され、アイドルファンへの訴求に注力していくのなら、メンバーたちが芸歴の中で踏んできたアイドルに限らない場数はきっとアドバンテージになる。


重ねて強調するが、あくまでアイドルの枠内に立ち続けながらにして枠を超えることこそが重要なのだ。枠を出るようならもう坂の名は捨てたほうがいい。そのあとはお笑いファンの支持を得られるかどうかの問題であって、私たちアイドルファンには関係がない。

時間はある。ワクチンが行き渡るまで、どこもかしこもステージパフォーマンスは数年間の停滞を余儀なくされるだろう。そこから頭一つ抜け出ることを考えるのであれば、旧来のハコ形態への依存を捨てて新たなアクションを起こし続けていく必要もあろう。しかしそれができるのはきっと世界でも一握りだ。どちらかといえば吉本興業は保守的な企業イメージである。無理に革新を目指さずとも良い。革新
派の同業他社たちが手法を確立してから資本を投入するのでも構わない。今は充電期間と思って、群雄割拠のエンタメ界で前衛にはならずとも取り残されることのないよう必死に練習を重ねてほしい。ファンにはその姿を見せてほしい。(配信でいいから。)
事務所未所属者をオーディションする他の坂道シリーズと違い、吉本坂のメンバーは皆もともと吉本やその関連事務所の所属者で、芸能のお仕事を生業としている。(※例外として、吉本にマネージャー業で雇用されている者もメンバーに1名いる)
そのため、進学等で人生の局面が変わることで卒業、さらには芸能界を引退してしまうことも少なくない従来のアイドルよりも、長期の目標を見据えた活動が可能だ。(※結成から2年経過したが、1期生46名中卒業者は『海外在住で活動への参加が困難』とした者と、結婚に伴い事務所を退所した者の計2名のみ。比較対象にもよるが、2年で46分の2≒4.3%は大所帯アイドルの中で相当低いと言って良い)
ぜひとも、アイドルのフォーマットを遵守しつつ、従来のアイドルでは見られなかったようなプロフェッショナルのエンタメにも取り組んでみてほしいと期待している。「坂道」の名のもとに集うことが無ければ出会っていなかったかもしれない異業種同士の者たちも、この期間に新たなコラボレーションの可能性を探ってみてほしい。

本音を言ってしまえば、老若男女のグループが本気でアイドルとしてのステージに取り組む様が観られればそれだけで満足している。アイドルパフォーマンスが本人たちに軽視される心配をしてまで新たなパフォーマンスに期待したいとは思わない。それでも、やはりこのグループの強みは芸なのだ。数あるアイドルグループの中で売れるには、強みを磨くほかない。(もちろん、アイドルの基本を学んだ上でだが) 自分の推しているグループには売れてほしいものである。だから、私はどうか、どうかアイドルであることを忘れないでと願いつつ新たな芸にも期待するほかないのだ。